水道水の水質基準項目、ご覧になりましたか?
全部で51項目あるうちの、42個めに「ジェオスミン」というものがあります。
「水質基準項目と基準値(51項目)」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html#01
ジェオスミン、聞いたことありますか?
これ、実は「雨上がりのにおい」と言われるものだそうです。
よく歌詞に出てくるアレの、原因物質ですね。
「雨上がりのにおいが好き」といったセリフに対して「それはジェオスミンという物質で、藍藻類がどうのこうの…」なんていう風情もおもむきも何もない言葉をかけるのは、絶対にやめましょう。
ちなみに、ジェオスミンという名前は短くて呼びやすい(読みやすい)ですが、これは”別名”です。
本当の名前はめちゃめちゃ長い上に、意味のわからないカタカナが並びます。
厚生労働省では…
「トランス-1,10-ジメチル-トランス-9-デカロール」
「(4S,4aS,8aR)-オクタヒドロ-4,8a-ジメチルナフタレン-4a(2,H)-オール」
Wikipediaだと…
「(4S,4aS,8aR)-4,8a-ジメチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロナフタレン-4a-オール」
という風になってますね。
全体的に、馴染みのない、生理的に拒否反応を起こしそうな名前ですよね。
化学式だと「C12H22O」と、かなりギュッとなってシンプルです。
そんなジェオスミン。
水質基準値は「0.00001mg/L以下」となっており、かなり微量ではあるものの、0ではありません。
つまり、基準をクリアした水道水にも、ジェオスミンが微量入ってるかもしれないということ。
家庭の蛇口から出てくる水道水を飲むと、微量のジェオスミンを摂取してしまう可能性があるんです。
果たして、大丈夫なんでしょうか?
この記事では、そんな「ジェオスミン」のことや、水道水の飲用・流入リスクなどについて解説していきます。
どうぞ最後まで、ごゆっくりご覧ください。
水道水に「ジェオスミン」が入ってる?毒性は?
水質基準の42番めは「ジェオスミン」となっています。
「ジェ」は「GE」なので「ゲオスミン」とも呼ばれます。
「ゲオスミン」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ゲオスミン
ジェオスミンの毒性ですが…
実は、このジェオスミンを多量に取り込んだことで急性中毒が起きた、というような情報は”ありません”でした。
ただ、これは「毒性がないことを確認した」というわけではなく、事例がないので「中毒症状の有無は不明」ということです。
微量の検査においては「人体への毒性はない」という結論が出ているようですが、こちらも「蓄積することで慢性の症状が出るかは不明」となっています。
「ヒト由来の培養細胞を用いたカビ臭原因物質ジェオスミンおよび2-メチルイソボルネオールの毒性評価」島根県保健環境科学研究所
https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/pref/chosa/hokanken/shohou/shohou50.data/08_kitawaki.pdf?site=sp
つまり、ジェオスミンに関して、私たちは有効な情報をそれほど持っていないということ。
よくわからないものには“手を出さない”というのが、リスク回避のコツです。
では、人体への影響以外の部分については、どうなんでしょうか?
1つ、明確に水道水飲用・使用のリスクになるものがあります。
以下をご覧ください。
ジェオスミンが含まれる水はどんな「ニオイ」?
ジェオスミンは、強烈な”ニオイ物質”であることがわかっています。
水道水においては「カビ臭」の原因となっていて、異臭被害が起きたこともあります。
しかも、そのニオイは、人が敏感に反応してしまうもの。
ごく微量でもわかり、不快に感じるそうです。
水質基準値が「0.00001mg/L以下」と、かなり微量に抑えないといけないことになっているのも、このジェオスミンのニオイを「0.00001mg/L」=”10ng/L”程度でも感知してしまう人がいるためです。
10ng
=0.01μg
=0.00001mg
もちろん、10ng/Lですべての人がニオイを感じるわけではありません。
20人に試した結果、臭気の感知範囲は「12.9〜685ng/L」と、個人差がかなりあったようです。
それでも、嗅覚が鈍感な人でも「0.0007mg/L」でわかるということ。
仮に、この重さの粉末を手の上に乗せても、ほぼ何も感じられないでしょう。
参考までに「1円玉」は1g=1000mg(=1000000000ng)です。
それぐらい、ジェオスミンに対して人の嗅覚は、敏感に働いてしまうんです。
厳しく制限しないと、水道水が「クサすぎて使えない」という事態になります。
ちなみに、冒頭でお伝えした「雨上がりのにおい」。
これは、降った雨が蒸発することで、土中のジェオスミンも一緒に大気中へ拡散されるために感じるものだそうです。
なので、ジェオスミンが含まれる土壌が濡れれば、別に雨でなくても「雨上がりのにおい」がするのかもしれませんね。
「ジェオスミン」はどこからやってくる?
水道水に入ってるかもしれない「ジェオスミン」。
一体、どこからやってくるんでしょうか?
実は、これは「藍藻(らんそう)類」(シアノバクテリア)という細菌がつくる物質です。
「藍藻」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/藍藻
この字面から「植物かな?」と思うかもしれません。
私も最初はそう思ってました。
でも、細菌です。
栄養がたくさんあれば、その分増殖します。
そして、増殖した分だけ、ジェオスミンが普段よりも多く作られます。
つまり、藍藻にとっての栄養が過多になる(富栄養化する)と、ジェオスミンが大量に生成され、それが水源などに流入して水道水にニオイがつく、という流れです。
ここで「富栄養化とは?」という疑問が出てきますが、文字通り「栄養が多すぎる状態になる」ことを言います。
「富栄養化」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/富栄養化
ここでいう”栄養”とは「人にとっての栄養」ではありません。
富栄養化は、海や湖沼、河川などの水域に対して使う言葉です。
つまり「水の中に生息する生き物」にとっての”栄養が多すぎる”状態を指しています。
窒素化合物やリンなどの「肥料分」が水域へ多く流入してしまうことで、このようなことが起きます。
“肥料”と聞くと「田んぼかな?」と思うかもしれませんが、もちろん農業由来の肥料も含みますよ。
他にも「生活排水」「工業排水」「畜産の糞尿」などに、富栄養化の原因となる物質が含まれています。
「うんこが肥料になる」というのは、あなたも聞いたことがあるのではないでしょうか?
水域で富栄養化が起きると「赤潮」「青潮」といった、見れば明らかにそうなってるとわかる状態になります。
これが実際”生態系”に影響するため、公害や環境問題として認識されており、そもそもの「富栄養化」を防ごうとする傾向にありますね。
水道水の水質基準でも、人への毒性と同時に富栄養化の原因になるとして「硝酸態窒素」や「界面活性剤」などに基準値が設定されています。
これらの水質基準が守られていれば、富栄養化のリスクも多少は抑えられます。
そして、ジェオスミンが藍藻類によってつくられることも減り、水道水が”かび臭くなる”という事態を減らせます。
では、現実はどうなってるんでしょうか?
ジェオスミンは、水道水にどの程度含まれているのか?
見ていきましょう。
日本の水道水の「ジェオスミン」含有量はどうなってる?
今、あなたの家でも私の家でも、蛇口をひねれば水が出てきますね。
この水は、そのまま飲んだり、調理に使ったり、またトイレや洗面所や風呂で洗浄に使ったりと、あらゆる用途で利用しています。
これらの水にジェオスミンが入ってると、カビ臭がして最悪ですよね。
クサくて飲めないだろうし、調理に使えばできあがったものに異臭がつくし、洗浄したものにカビ臭がついたり…。
ということで、現状日本の水道水にはどの程度のジェオスミンが含まれているのか?
水道水になる水源の水に元々ジェオスミンがどれぐらい含まれていて、浄水場でどの程度取り除かれているのか?
見てみましょう。
「水道水質データベース」の2019年の水質分布表によると、日本全国の水源の水(原水)とジェオスミンの関係は、以下のようになっています。
対して、浄水場でキレイになった後の水(給水栓水等)は、どうなっているのか?
「水質分布表2019原水(平均)」水道水質データベース
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2019-b-01gen-02avg.pdf
「水質分布表2019浄水-給水栓水等(平均)」水道水質データベース
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2019-b-04Jyo-02avg.pdf
上記からわかるのは、元々基準値を超えるジェオスミンを含んでいる水源は結構あるものの、浄水場で基準値以下までしっかり除去されているということ。
実際、ジェオスミンは「緩速ろ過」「オゾン」「活性炭」「生物処理」といった多くの方法で除去ができるそうです。
とは言っても、この除去法の多くは、日本国内の一部地域でしか運用されていない“高度浄水処理”のシステムにしかないものです。
なので、多くの浄水場ではジェオスミンの除去が困難と言えるでしょう。
今は基準値以内に収まっていますが、いつ基準値を超えて水道の供給が止まったり、基準値を超えてカビ臭がする水道水が出てきてもおかしくありません。
私たちは毎日、当たり前のように家庭廃水を出しています。
工場は止まることなく稼働しており、畜産動物は毎日食事をして排尿・排便します。
“富栄養化”の原因は、常に存在しているということ。
浄水場でジェオスミンが調整されているorいないにかかわらず、自宅で扱う水道水に「どれぐらいジェオスミンが含まれているのか?」というのは、ぜひ意識してみてくださいね。
ちなみに、上記の水質分布表では”場所”を特定できません。
あなたの地域の水道水質を知りたい場合は、管轄の水道局などのホームページで確認する必要があります。
その方法は、以下の記事でご覧になれますので、参考にどうぞ。
「ジェオスミン」は”嗅げば”わかる?
この記事では、水道水の水質基準に設定されている「ジェオスミン」のことや、水道水の飲用・流入リスクなどについてお伝えしてきましたが、いかがでしたか?
まとめると、以下です。
- ジェオスミンは、水域の”富栄養化”によって増殖する細菌が生み出す「ニオイ物質」
- ジェオスミンは、水道水にほんの微量含まれるだけでも「カビ臭」がする
- ジェオスミンの急性中毒や慢性毒性についてデータがなく、安全であるとは言えない
ジェオスミンは、その物質が土壌や水域に元々存在しているわけではなく、ジェオスミンを生み出す”藍藻”という細菌が増えてしまうことで、水道水への流入リスクが発生します。
藍藻の増殖さえ防げれば、ジェオスミンが大量に水源へ流れ出ることもないですし、浄水場で取り除けるようにもなっているため、私たちが体内へ取り込むリスクは比較的低いでしょう。
もし、大量のジェオスミンが含まれた水道水が仮に蛇口から出てきたとしても、おそらく“ニオイ”でわかるはずです。
明らかに変なニオイがする水道水は、このジェオスミンが多く含まれている可能性があります。
水道水を飲んだり、料理に使ったりする際には「自分の身は自分で守る」という意識を持って、“ニオイを嗅いで確認する”などした方が良いかもしれませんね。
あなた自身や家族の健康を守るためにも、できるだけジェオスミンを体内に取り込まない工夫をしておきましょう。
それでは、今後も健やかな生活をお送りください。