水道水の水質基準項目、ご覧になりましたか?
全部で51項目あるうちの、38個めに「塩化物イオン」というものがあります。
「水質基準項目と基準値(51項目)」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html#01
まず「塩化物」とは、物質の名称に”塩化”や”クロロ”がつくものすべてを指します。
一番身近なものでは「塩化ナトリウム」が、料理で使う”食塩”のことです。
こういった塩化物にくっついてる塩素の部分が「塩化物イオン」だと考えて良いでしょう。
そんな塩化物イオンの水質基準値は「200mg/L以下」となっています。
つまり、基準をクリアした水道水にも、塩化物イオンが入ってるかもしれないということ。
家庭の蛇口から出てくる水道水を飲むと、塩化物イオンを摂取してしまう可能性があるんです。
これ、人体に影響はないんでしょうか?
この記事では、そんな「塩化物イオン」の毒性やその他のリスク、水道水への流入可能性などについて解説していきます。
どうぞ最後まで、ごゆっくりご覧ください。
水道水に「塩化物イオン」が入ってる?毒性は?
水質基準の38番めは「塩化物イオン」となっています。
塩素(Cl)がくっついてるすべての物質の”塩素のイオン”の部分だけを対象にしています。
「塩化物」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/塩化物
「塩化物のカテゴリ」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:塩化物
塩化ナトリウムを始め、塩素の化合物は自然に多く存在しています。
水質基準にならないほど毒性の低いものから、水質基準に設定されるほど人体に有害なものまで様々。
さらに、自然には存在せず、浄水の過程で生成されてしまうものまであります。
この毒性は、塩化物イオンがくっついてる相手によって変わってきます。
「しょっぱい」「塩辛い」程度のものもあれば、“有機塩素化合物”と呼ばれる有害なものや、発がん性のあるもの、また「環境汚染の原因」になる物質まで。
「有機塩素化合物」Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/有機塩素化合物
水道の水をキレイにする浄水場では、殺菌消毒の目的で必ず「塩素(次亜塩素酸ナトリウム)」が使われます。
また、母なる海の主成分は「塩化ナトリウム」です。
なので、水道水と塩素や塩化物は、切っても切れない関係だと言えますね。
ちなみに、水道の水質基準項目に設定されている塩化物を含むものや、有機塩素化合物は以下です。(リンク先へ飛ぶと、詳細をご覧になれます)
項目番号 | 水質基準項目 | 概要 |
3 | カドミウム及びその化合物 | カドミウムの塩化物 |
4 | 水銀及びその化合物 | 水銀の塩化物 |
5 | セレン及びその化合物 | セレンの塩化物 |
6 | 鉛及びその化合物 | 鉛の塩化物 |
7 | ヒ素及びその化合物 | ヒ素の塩化物 |
8 | 六価クロム化合物 | 六価クロムの塩化物 |
10 | シアン化物イオン及び塩化シアン | 塩化シアン |
12 | フッ素及びその化合物 | フッ素の塩化物 |
13 | ホウ素及びその化合物 | ホウ素の塩化物 |
14 | 四塩化炭素 | 有機塩素化合物 |
16 | シス-1,2-ジクロロエチレン 及びトランス-1,2-ジクロロエチレン | 有機塩素化合物 |
17 | ジクロロメタン | 有機塩素化合物 |
18 | テトラクロロエチレン | 有機塩素化合物 |
19 | トリクロロエチレン | 有機塩素化合物 |
21 | 塩素酸 | 塩素の化合物 |
22 | クロロ酢酸 | 有機塩素化合物 |
23 | クロロホルム | 有機塩素化合物 |
24 | ジクロロ酢酸 | 有機塩素化合物 |
25 | ジブロモクロロメタン | 有機塩素化合物 |
27 | 総トリハロメタン | 有機塩素化合物 |
28 | トリクロロ酢酸 | 有機塩素化合物 |
29 | ブロモジクロロメタン | 有機塩素化合物 |
32 | 亜鉛及びその化合物 | 亜鉛の塩化物 |
33 | アルミニウム及びその化合物 | アルミニウムの塩化物 |
34 | 鉄及びその化合物 | 鉄の塩化物 |
35 | 銅及びその化合物 | 銅の塩化物 |
36 | ナトリウム及びその化合物 | ナトリウムの塩化物 |
37 | マンガン及びその化合物 | マンガンの塩化物 |
38 | 塩化物イオン | 塩化物に含まれる塩素イオン |
「塩化」「塩素」「クロロ」「ハロ」とつくものは、すべて塩化物イオンを含んでいます。
また「化合物」とつくものは、すべて塩化物も含みます。
水質基準項目に設定されているものだけで、こんなにあります。
項目数は今のところ、全部で51項目ですが…
その半分以上が「塩化物イオン」を含んでいるということですね。
これらはすべて、水道水に微量入ってる可能性がある物質。
そして大半に毒性や危険性があり、水に余計な味やニオイをつけたり、変色させたりしてしまうものです。
これらの物質や、その他の塩化物に含まれる塩化物イオンを合わせた総量が「200mg/L以下」となるように、水質基準項目38番めに塩化物イオンが設定されています。
「水道水1Lの中に200mgも許容して大丈夫なのか?」と思うかもしれませんが…
もし最大量の塩化物イオンが含まれたとしても、おそらく大半は”塩化ナトリウム”の塩化物イオンが占めることになると思います。
上に挙げた水質基準項目の中で、特に有害性の高いものはどれも「1mg/L以下」の基準値が設定されており、水銀なんて「0.0005mg/L以下」ですからね。
では、例えば最大値200mgの塩化ナトリウムが1Lの水道水に含まれていた場合…
これを飲んでも大丈夫なんでしょうか?
また、人体への影響以外に何か不都合はあるのか?
以下をご覧ください。
塩化物イオンの量で、水道水の「味」が変わる?
実は、ナトリウム自体は毒物および劇物取締法で「劇物」に指定されている危険な物質です。
ですが、塩化物である「塩化ナトリウム」となると、人体にとって欠かせない物質。
私たちは日常的に”食塩”として摂取していますね。
では、水道水に塩化ナトリウムが多く含まれることで、何が問題なのか?
それは「味」です。
塩化ナトリウムは、水中に「210mg/L」以上入っていると、味が知覚できるようになるそうです。
この含有量が増えるごとに、塩辛くなっていきます。
家庭の蛇口から出てくるただの水道水なのに、しょっぱい(塩辛い)味がしたら…どうでしょう?
その水を飲めば、水道水への異物混入を疑ったり、人によっては「味覚の異常かも?」と心配になるかもしれません。
また、いつもと同じように料理をしても、塩加減が狂ったり、その水でお茶やコーヒーなどを淹れると変な味になります。
塩化物イオンが水道水に多く含まれていると、このように水の味が変わります。
水質基準項目に設定されているのは、この「水の味への影響」という意味が大きいですね。
さらに、同じ塩化物でも「塩化カルシウム」や「塩化カリウム」が水道水の味を変えてしまうパターンもあります。
塩化カルシウムは222mg/L以上、塩化カリウムは310mg/L以上で、塩辛さが出てくるとされてます。
また、水道水を使ってコーヒーを淹れた際に味が変わるのは、塩化ナトリウムで400mg/L以上、塩化カルシウムで530mg/L以上となっています。
水道水は、私はそのまま飲むことはありませんが、歯磨きの際にはうがいするのに使用します。
もちろん、水道水を飲む人も多くいるでしょう。
水質基準は、人体への有害性だけでなく、口に含んだ時の「おいしさ」も考慮して、設定されているようです。
水道水の「塩化物イオン」は正常に除去されてる?
塩化物イオンが水道水中に多く含まれていると、味が変わること。
そして、水道水をおいしく飲める程度に水質基準値が設定されていることはわかりましたね。
水質基準は、水道法で定められているため、絶対に遵守しないといけないものです。
なので、あなたの家庭の蛇口から出てくる水道水は、基本的にはこの基準が守られています。
では、水道水の塩化物イオンは、浄水場で正常に除去されているんでしょうか?
それとも、水源の水(原水)に元々入ってなくて、“何もしてない”だけなのか?
「水道水質データベース」の2019年の水質分布表によると、日本全国の水源の水(原水)と塩化物イオンの関係は、以下のようになっています。
対して、浄水場でキレイになった後の水(給水栓水等)は、どうなっているのか?
「水質分布表2019原水(平均)」水道水質データベース
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2019-b-01gen-02avg.pdf
「水質分布表2019浄水-給水栓水等(平均)」水道水質データベース
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2019-b-04Jyo-02avg.pdf
上記からわかるのは、原水にはほぼ確実に微量〜多量の塩化物イオンが含まれており、浄水場で基準値以下まで除去されているものの、元々基準値以下の場合は許容され、さらに浄水の過程で増えているということ。
他の水質基準項目(水銀やカドミウム等)の場合、できるだけ多く除去しようとされているため、これは少々違和感があります。
実は、原水中の塩化物イオンは、通常の浄水場設備では除去できないそうです。
「イオン交換」「膜ろ過」といった方法で除去できるようですが、通常の浄水方法で除去できない以上、日本の多くの浄水場では塩化物イオンを除去できず、増えれば増えた分だけ水道水に含まれたまま供給されます。
つまり、できるだけ塩化物の含有量が少ない水源の水を使うことぐらいしか、塩化物イオンへの対処法がないと言えます。
しかも、浄水場では殺菌消毒など水処理の目的で、塩素の投入が義務付けられています。
現状は「運良く塩化物イオンが基準値以下になっている」という状況なのかもしれません。
突然、多くの海水が水源へ流入してきたら?
意図せず、浄水場内で多くの塩化物イオンが残存してしまったら?
いつ、塩辛い水道水が蛇口から出てきても、おかしくありません。
また、必要以上の塩化物を体内に取り込んでしまうリスクもあります。
リスク回避のことを考えれば、浄水場で塩化物イオンが正常に除去されているorいないにかかわらず、自宅で扱う水道水に「どれぐらいの塩化物が含まれているか?」は、把握しておいた方がいいということ。
ぜひ、この機会に意識してみてくださいね。
ちなみに、上記の水質分布表では“場所”を特定できません。
あなたの地域の水道水質の、”最新”の検査結果を知りたい場合は、管轄の水道局などのホームページで確認する必要があります。
その方法は、以下の記事でご覧になれます。
「塩化物イオン」が水道水に流入してくる可能性は?
現状、塩化物イオンは基準値以内に抑えられていることは、おわかりいただけたかと思います。
ですが、この世に「塩化物」が存在する以上、体内に多量に取り込んでしまうリスクは常にあります。
例えば、以下のような流入経路。
塩素の化合物である“塩酸”は、あらゆる工場で「洗浄」や金属の「溶解」また廃水の「pH調整」など、様々な用途で利用されます。
こういった塩素化合物を使用する工場の排水には、塩化物イオンが多く含まれているでしょう。
このような工場の排水や、元々塩化物(主に塩化ナトリウム)を多く含む海水が、いつか水道水になる原水に混ざってしまうと、塩化物イオン過多の水が浄水場へ送られることになるでしょう。
また、塩化物は浄水場内でも、殺菌消毒の工程で使われます。
通常運転時には問題がなかったとしても、何かの拍子に別の有害物質が多く混入してしまった場合、その対処のためにいつもより多めの塩化物(次亜塩素酸ナトリウムなど)を投入することも考えられます。
塩化物イオンは通常の浄水処理では除去できないため、基準値を越えれば供給がストップ。
基準値以内の場合でも、限界ギリギリの量が含まれたまま供給され、塩辛い水が出てくることになるでしょう。
このように、私たちが塩化物イオンを体内へ多量に取り込んでしまうリスクは常にあります。
塩化物イオンの流入リスクを念頭に置いて、近隣の水道情報に気をつけておくことをオススメします。
「塩化物イオン」の回避は難しい?
この記事では、水道水の水質基準に設定されている「塩化物イオン」の毒性やその他のリスク、水道水への流入可能性などについてお伝えしてきましたが、いかがでしたか?
まとめると、以下です。
- 塩化物イオンが含まれる物質は、くっつく相手によってその毒性が変化する
- 水質基準項目のうち半分以上が塩化物を対象としており、毒性や危険性がある
- 水道水に含まれる塩化物の多くは”塩化ナトリウム”であり、水の「味」を塩辛くする
塩化物イオンが水質基準項目に設定されているのは、その毒性もありますが、特に水道水の「味」に響いてくるから、という理由が大きいです。
ですが、含まれる塩化物によっては、摂りすぎると人体に有害であるのも事実。
塩化物イオンを除去できない浄水場が多いことから、水道水を飲んだり、料理に使ったりする際には「自分の身は自分で守る」という意識を持っておいた方が良いかもしれませんね。
あなた自身や家族の健康を守るためにも、できるだけ塩化物イオンを体内に取り込まない工夫をしておきましょう。
それでは、今後も健やかな生活をお送りください。